2014年6月10日火曜日

DeNAライフサイエンスのサイトからセルフメディケーションを考える

約半年ぶりに書きます。だいぶさぼってしまいました。
学んだことはまたどんどん書いていきたいと思います。

あまりこのブログではHealth2.0について取り上げてこなかったのですが、
最近、健康・医療分野とITはかなりホットな話題なのでもう少し取り上げようと思っています。
アップルのiOS 8やiWatchでもヘルスケア・フィットネス機能が目玉になると言われていますし非常に楽しみです。実際にそれがどの程度うまくいくのかはgoogle healthの例もありますしまだわかりません。

Health2.0に関連して、先日気になったニュースがこちらです。

http://dena.com/press/2014/06/dena-mycode.php

DeNAが遺伝子検査サービス「MYCODE(マイコード)」を始めるようです。
そういえば前にそんなニュースあったなーという気がしたので検索してみたら今年の1月に発表していました。ちなみにYahooなども参入している分野です。
遺伝子検査サービス自体は最近増えつつあるので目新しさは無いのですが、
DeNAやYahooというネームバリューのある企業の競合がどれほど消費者に影響をもたらすのかが気になるところです。
また、アメリカの遺伝子検査サービス提供会社の代表格である23andmeが去年FDAによってサービスの停止を言われたように、扱う情報や倫理などが問題にもなりやすい分野です。日本でも出生前診断やダイエットに関する遺伝子検査などは普通に行われていますが、本格的に病気を発見するようなサービスはどうなのでしょうか。

ところで、このマイコードを始めるDeNA(正確にはDeNAライフサイエンス)が目指すものの一つに、「自分で健康をマネジメントする社会へ」というのをサイトで紹介しています。以下はDeNAライフサイエンスのサイト(https://mycode.jp/selfmedication.html)からの抜粋です。

医療・社会保障問題を解決する上で鍵となる「Healthケア」を実現し、より効果的に推進していくために、私たちは個人が自分自身で健康のハンドルを握る「セルフメディケ―ション」の考え方を広げていきたいと思います。「セルフメディケ―ション」とは個人が自分自身についての健康情報を知り、専門的な医療情報や健康維持・増進のために役立つ情報を知り、その上で、病気にならないための予防法や健康向上のための行動を自ら起こしていく活動のことであり、私たちは個人の健康ための「セルフメディケ―ション」を具現化し、推進・サポートするサービスを幅広く提供したいと考えています。 

このセルフメディケーションはとても大事だと思います。情報やものにあふれる現在の社会で自分の健康にとって必要な情報や行動は自分で選択していかなければなりません。この意味においてヘルスリテラシーと似ているところがあります。

ただし、この「セルフ」という言葉があまりに強調されると少し抵抗もあります。というのも、現在進めている研究で「健康の社会的決定要因」と呼ばれる、健康に関わっている社会的な要因(所得であったり、住んでいる環境であったり、職場環境であったりと様々なものがあります。)について勉強しているからです。

例えばもし、Aという地域に暮らしている人の健康寿命(健康に生活できる時間)とBという地域に暮らしている人の健康寿命に20年もの差があったとしたら、その差の背景には公衆衛生環境の整備の違いや、社会格差の存在などが考えられます。この違いがあるなかでいくら自分を律しても(そもそもBの地域では律することさえも難しいかもしれませんが)なかなか健康寿命の差は縮まらないでしょう。
これは日本の中では極端な例かもしれませんが、世界的には普通にあることだと思います。

このように健康とは社会的な影響を強く受けているものですので、自分の体調は自分で管理しつつ、個人では対処できない問題については、国や自治体に健康を保障する政策や環境の改善を要求することも必要ということです。ちなみにこの後半部分を批判的ヘルスリテラシーと呼んだりしています。

セルフメディケーションという言葉の解釈の問題でもあるかもしれませんが、何でもかんでも健康を個人の責任にしてしまうのはやはり望ましくないというのが思うところです。特に、医療費が増加しているからセルフメディケーションが大事というのはどうかと思います。社会的な問題が急に個人のせいにされたような気がしてしまいます。
健康にとってセルフメディケーションが大事というのであれば納得できます。
何にせよ、自分の置かれている状況に応じてセルフメディケーションや批判的ヘルスリテラシーを実践していく必要はあるのかもしれません。

2013年12月13日金曜日

ナットビーム先生の文献から健康教育の歴史を見る

今さらですが、ナットビーム先生の

Health literacy as a public health goal: a challenge for contemporary health education and communication strategies into the 21st century[1]

を読みました。
だいぶ前に一度読んだことがあったのですが、その時は正直「ふーん」位しか思わなかった気がします。そこで今回あらためて読んでみたのですが、というのもTwitterのTL上にこれが流れてきてなんとなく読んでみるかと思い読みだしたんですが、率直な感想が「これめっちゃ秀逸な文献じゃん!」でした。

この文献を知らずしてヘルスリテラシーを修士の研究テーマに挙げていたとは恥ずかしい。
といっても前回読んだ時より再発見があるのは今研究室で学んでいるからこそなので、少しでも自分が成長(?)しているのであればそれは良いことだとポジティブに捉えたいと思います。

この文献の概要を分かりやすくメモしておきたいところですが、今回は歴史的背景を中心にメモしておこうと思います。ヘルスリテラシーを理解するにはこの文献で述べられている健康教育や健康の社会的(政治的?)な運動(キャンペーン)の歴史は抑えておく必要があるからです。
また、ナットビーム先生の言うヘルスリテラシーについては以前のエントリでも何度か取り上げているので割愛します。



ここでは先進国での話になりますが、1960年代1970年代は健康に関する運動は健康的な生活習慣による非感染症の予防に向けられていました。このような運動の多くは(健康・医療)情報のやり取りについて重点が置かれ、またコミュニケーションと行動変容の関係性に対する単純な理解に基づくものでした。ですが、そのような情報のやり取りのみに焦点を当て、個人の社会的状態や経済的状態を考えていなかった運動は、健康行動に影響をもたらすような期待された結果に到達していないということが明らかになってきました。1970年代に現れた多くの健康教育プログラムは、地域の中でも十分な教育を受け、経済的にも余裕がある人のみに効果的であるということが分かったのです。このような集団は伝統的メディアによって流される健康に関するメッセージを受け取り、それに対応するための高い教育水準やリテラシー、対人能力、経済的資源を持っていると考えられました。

1980年代には、より高度な、理論に基づく介入という新世代の発達により疾病予防のツールとして健康教育がかなり力を持つようになりました。
代表的な例としてアズゼンやフィッシュバインの計画的行動理論(Ajzen and Fishbein, 1980)やバンデューラの社会的学習理論 (Bandura, 1986)といったものがこの時代の健康教育に取り上げられています。また、同じときにソーシャルマーケティング (Andreasen, 1995)も現れてきました。

こういった歴史的な進歩があるにもかかわらず、これらのコミュニケーションや教育に頼った介入は行動変容という実際に持続性のある結果にほとんど到達せず、また、社会の中での異なる社会的、経済的集団間にある健康格差を縮小させることにほとんど影響をもちませんでした。

このような歴史をもう少し広くざっくり見てみます。、
19世紀の公衆衛生学的活動は、産業革命によってもたらされた壊滅的な住居や職場環境を改善する必要から健康の社会的、環境的な決定要因へ注意が向けられましましたが、20世紀後半には上述のようにそれが個人のとるリスク行動に向けられてしまいました。
ですが近年オタワ憲章やジャカルタ宣言を通して、ヘルスプロモーションは私たちが健康の決定要因を是正する力を向上させるための公衆衛生学的な取り組みとして理解されてきました。
そして今、この21世紀にヘルスプロモーションに変わって注目されているのがヘルスリテラシーといえます。

そしてナットビーム先生が言うヘルスリテラシーというのは情報の理解や適応にとどまらず、私たちが社会を変えていく力になります。ナットビーム先生も文中で述べているように、概念としては新しいものばかりではなく、むしろヘルスプロモーションと同じところが多くあります。ではなぜヘルスリテラシーとして取り上げられているのかと言えば、この文献内で"repackaging"という言葉が用いられているように、最近失われつつある本来のヘルスプロモーションの意味をヘルスリテラシーで"再包装"し再び社会に目を向けようという感じがあります。←Tones(2002)の言葉で言えばヘルスプロモーションというよりは「エンパワメント」の再銘柄化ですね。(H26/1/2追記)
そしてこれがナットビーム先生の言う所のcritical health literacyです。これは個人だけでなく社会や地域に益するものとして位置づけられています。



この文献を読むと分かると思いますが、ヘルスリテラシーという言葉を使って非常に明快な説明をしています。確か、他の文献に引用されてる数(インパクトファクター)でもトップの方だったと思いますが納得です。

そういえば最近のキックブッシュ先生のツイッターを見ていても非常にエネルギッシュな感じがするので今後どうなっていくのか楽しみな分野になってきています。

冒頭では私自身をポジティブに捉える発言をしましたが、まだまだこの分野を追い切れていないので、授業もひと段落ついてきたことですし自分の研究をがんばります。




Nutbeam, D. (2000). Health literacy as a public health goal: A challenge for contemporary health education and communication strategies into the 21st century. Health Promotion International, 15, 259-267.[1]



2013年12月2日月曜日

WHOのThe solid factsによるHealth Literacy-Social media and mobile health-

看護情報学特論ⅡでWHOのThe solid facts Health Literacyを読んでいます。
これは今までにも紹介してきたEuropean Health Lieracy Surveyの結果を受けて、その調査のボスとも言えるKickbusch先生やPelikan先生らが編集し、今年発行されました。

今回はこの中でテーマの1つになっているSocial media and mobile healthについてのメモです。



文頭では、

保健医療に関わる組織は、孤立したウェブ上の島になっている〝読むだけ″の情報ポータルをとりあえず作ってはそこに人々が訪ねてくるのを期待するより、人々がすでにいる(ソーシャルメディア上の)オンラインへ向かうべきである。 

というMaged N. Kamel Boulas先生の言葉を載せています。
訳が下手なのであれですが、とにかく受け身になるなということでしょう。
何もしなくても人が集まるというのは普通の市場に存在する企業ではありえません。
そのように考えがちなのがやはり医療で、次いで教育などでしょうか。

ここでは最初にWhat is known(分かっていること)として5項目挙げられていますので順に紹介します。


1. ソーシャルメディアは、利用者が健康に対する適切な意思決定をするために必要な健康情報やサービスを入手し、検討し、理解する力を潜在的に向上させることができる。 

ソーシャルメディアの強みとして常に言われているのがバイラルソーシャルマーケティングです。
これはもともとはバイラルマーケティングという言葉で、意図的に口コミを広めることで、コストを抑えながら宣伝するというマーケティングでした。この口コミという手法とソーシャルメディアが相乗効果を持って組み合わさったのがバイラルソーシャルマーケティングだと言えます。

他のマーケティングと比べてより多くの人に、より早く、かつ最低限のコストで及ぶこのバイラルソーシャルマーケティングは、健康教育やヘルスプロモーションにおいて重要な役割を担います。
この文献ではトルコにおけるコンドーム利用の促進にうまく使われたと述べられています。

この例からすると、確かに必要な情報やサービスの入手にはつながりますが、検討や理解というところまで向上させているのかというのは私の疑問です。
ソーシャルメディアによって検討や、理解という力を潜在的に向上させる可能性があるとすれば、それはその情報の受け手が様々な情報に晒されて、それらの取捨選択をしていく過程で学習が行われていくのかなと思います。

ただし、行動経済学の世界では情報量が増え、意思決定するのが複雑になるとデフォルト(あらかじめ決まっているもの)となっている選択肢を選択したり、考えるのをやめてしまうというようなことも言われているので情報に晒されることが学習になるとはやはり一概には言えないかもしれません。


2. オンラインソーシャルネットワークや参加型(participatory)コミュニケーションメソッドはピアサポートにとって貴重な機会を提供することができる。

出ましたPatientsLikeMe。peer to peerの話ではやはりここが取り上げられます。
実際、この文献でもclassic(典型的、伝統的) exampleとして紹介されています。
これは様々な疾患を持った人たちのSNSで、お互いに情報を交換したり、自分と同じ疾患を持った人の経験を知ることができます。 
これを使うことで認知的なベネフィットを得たり、セルフマネジメントが向上すると報告されています。

ここでは他にもTeen2Xtremについて紹介されていました。
Teen2XtreamはUCLAの公衆衛生大学院や、医療保険、プログラム、機関などを扱うHealth Netなどによって運営される10代のヘルスリテラシー向上を目的としてたSNS型のサイトです。この紹介スライドが下です。

3. モバイルソーシャルウェブは今や、健康を含むほぼどんなトピックでも網羅するアプリの共有や評価、おすすめ、検索を可能にしている。


スマートフォンやタブレット、最新世代のOS、ブラウザはソフトウェアのダウンロードやインストールを楽にし国民的なものにしました。
この例としては、イギリスのNHSが提供するモバイルアプリは2011年5月に公開されてから6ヶ月間で、信頼できる健康アドバイスを求める1億人以上の人によってダウンロードされました。

調べてみたところそのアプリがこちらのNHS Health and Symptom Checkerのようです。iPhoneとAndroid両方に対応しており、2013年9月の時点でアップデートされています。ネット上のホームページもそうですが、こういったアップデートは非常に重要であり、その信頼性にも関わってくるものだと思います。
ところでこのNHSですが、ちょうど1年前の2012年12月から「NHS choices health apps library」をローンチしています。 様々な種類のアプリがその有益性をきちんと評価されて集まっています。面白いですね。

4. スマートフォンとそのアプリは急速にかつ根底からヘルスケア、特に慢性的な状態にある人々のケア、を変えている。

このことはヘルスケアが、必要性という点でより流動的になり、全ての関係者の参加(engaging)によってより参加型になることを可能にしていると述べています

また多くの専門的な医療のモバイルアプリはヘルスケアのコストを下げ、臨床的アウトカムを向上させるのに十分な力を持っており、現在、この種のアプリの人気増大と範囲の拡大を考慮してアメリカのFDAは監督の対象となるアプリの枠組みをガイドラインにすることを提案しているようです。

ここではアプリの例としてPlain-language medical dictionaryを載せていました。
これは医療用語を日常的な言葉に変えてくれるものです。
これはWeb上でもiPhoneアプリとしても利用可能です。

医療や健康に関するアプリを検索すると本当にたくさん出てくるのですが、どれがエビデンスに基づいていて使えるものなのか判断するのはこれもまた難しい問題になりそうです。
デザインだけ見るとどれも使ってみたくなるようなデザインですし、ほとんどのものが無料です。
無料ならとりあえずダウンロードできてしまうので、今後医療や健康に関するアプリの利用についてもデータをとって明らかにする必要がありそうです(ランキングからある程度わかるようにデータ自体はあると思いますが)。


5. ソーシャルメディアは他の伝統的メディアより高いリスクをとる。

ここではソーシャルメディアのリスクについて触れています。
言われているところが、ソーシャルメディアの世界では誰もが情報を発信できるという点で、misinformation誤報やdisinformation意図的な誤報が広まるということが挙げられています。
こういった事実ではない情報が普及することをthe water ripple effect(日本語では何でしょうか。さざ波?波紋?効果)として急速に広く普及すると説明しています。

この問題はもっともなことで、だからこそ最近ではリテラシーが問われるということが増えているのですが、伝統的メディアよりリスクを取っているというのはどうかと思います。
確かにテレビや新聞などでは、一般的にモラルが低いとされるような情報であったり、明らかな嘘が流されることは基本的にはないと思います(かつてある健康番組でデータのねつ造というようなっこともありましたが…一般論的に言えばメディアはBPOなどによって放送倫理なども問われていますし第三者のチェックが入ります)。

それでもやはり私にとって伝統的メディアの怖いところは、明らかに情報操作が働いているところです。偏った見方を一方的に与えられるだけの方が私にはリスクに思えます。
そういえば最近の研究会の輪読でもagenda setting議題設定効果の話があったのを思い出しました。ただここではメディアの話はこのへんにしておきます。

もちろん伝統的メディアだからこその利点もあるのでどっちがいい悪いの話にはなりませんが、ソーシャルメディアには高いリスクというのは言い過ぎかなと感じます。
ただしなんでも新しいものは批判されるというのが世の常です。


以上の5つに続いて、次にWhat is known to work – promising areas for action(うまくいくためにわかっていること―活動に前途有望なエリア)として3項目取り上げられています。


1. 信頼できるソーシャルメディアチャネルの創造

信頼できるソーシャルメディアの創造によって多くの質の高い情報を広めることができる一方で、消費者は批判的な情報の評価や情報の探し方を学ぶことができます。
ここではその信頼できるソーシャルメディアチャネルとしてNHS Choicesを取り上げています。


2. 監視と抑止

ソーシャルメディアでは自由に投稿やコメントができるべきであり、それが本質であるが、定期的に監視と抑止が行われるべきとしています。
特にアカウント所有者はパスワードなどで自分を守る必要があります。
また運営組織も規制やガイドラインを敷き監視する必要があります。
こういった作業は非常に骨を折るものですが、オンラインコミュニティのリーダーとなる患者や(expert-patient)一般の人を育てることでファシリテートできるようになります。


3. 受け手に適したチャネル

ソーシャルメディアの内容や利用メディアの選択はターゲットの属性や意向、読解力のレベルにあったものを選ぶ必要があります。
また計画の段階からそのサービスの評価までターゲット集団の代表者に参加してもらうことが重要です。そしてテキストだけでなく、インタラクティブなゲームやライブセミナーなどの様々な方法を考えていく必要があります。



以上がSocial media and mobile healthの内容になります。
もう少しヘルスリテラシーとの関連で話が進むかなと期待していましたが(ある意味、話の内容の全てがヘルスリテラシーに関わっているのは確かですが)、ほとんど今までにもあったような総括となっています。
European Health Lieracy SurveyでもそこまでネットやモバイルといったeHealthを意識した質問紙になっているわけではないのでそこまで新しいことを述べることはないかなとは思っていましたが、ちょっと残念です。
ただ、このエリアは今後多くのエビデンスが増えていくのだと思います。
最近もPubMedではmobileやネットとヘルスリテラシーの関連を見ている文献が出ていました。
今後に期待しながら、私もがんばります。

2013年11月21日木曜日

健康の社会的決定要因としてのヘルスリテラシー

昨日は研究会で研究発表の担当でした。
はじめに反省として、もっと研究について意識を持つこと。
なんとなく調べているだけだと「何をしてきたのか?」と問われた時に
答えられませんし、つまりそれは何もしてなかったということになります。

今年の研究会の最後の発表でも研究について発表しますので、(12月18日水曜日18時から聖路加看護大学で行われますのでご興味のある方はぜひご参加ください。)
この1ヶ月は頑張っていきたいと思います。
頑張るためのモチベーションは忘年会です。

昨日の私の発表はおそまつなものだったのですが、
先生のお話や、他のメンバーのディスカッションからヘルスリテラシーの現状について体系的に学ぶことができました。そこをメモしておきます。
私の理解に基づくので間違っているところや解釈を間違えているところもあるかもしれませんが…


ヘルスリテラシーという言葉が使われるようになってから多くの尺度が開発され利用されてきました。
特に最初の頃は医療におけるlow health literacy患者をスクリーニングする尺度(やテスト)が開発されてきました。
Nutbeam先生の言葉をお借りすれば[1]、
日常生活場面で効果的に機能するための読み書きの基本的なスキルである「機能的ヘルスリテラシー(functional literacy)」によってスクリーニングするものになると思います。

そして最近では医療場面重視のへルスリテラシーから、公衆衛生学的な面を重視したヘルスリテラシーへの関心が高まり、より包括的な尺度を開発しようとする流れがでてきました。

では公衆衛生学的な面を重視したヘルスリテラシーとは一体何でしょう。
これは、ヘルスリテラシーが個人の能力としての位置づけから、健康の社会的決定要因の一つとして言われるようになってきたことによります。
ヘルスリテラシーが健康の社会的決定要因であるならば、ヘルスリテラシーが低いということは自分の能力不足というよりはその周りの環境に原因があると捉えるということになります。
つまり、ヘルスリテラシーを測ることで、その人の環境を測ることができるということです。

最初の頃は、ヘルスリテラシーを測ることで、ヘルスリテラシーが低い人には何か介入を行いその人のヘルスリテラシーを上げようとするのが目的にされていましたが、(私もそのような研究ができればなと思いながら修士へ入学しました。)現在では、その人への介入よりも周りの環境への働きかけを重要とする動きがあります。もちろんその人への介入も重要なことに変わりは無いと思います。
こういった動きから公衆衛生学的な面を重視したヘルスリテラシーが叫ばれるようになり、実際に包括的な尺度を用いることで測ろうとしています。

ここでヘルスリテラシーをもっと簡単に言ってしまえば、
健康教育のためのツールというよりは、社会環境を整えるためのツールになるということです。
しかもヘルスリテラシーというのは他の社会的決定要因と比べたとき、例えば、貧困という問題を変えるというのは実際には難しい問題となっていますが、ヘルスリテラシーはもっと変えることができるものになっています。

また、高いヘルスリテラシーを持っているということは、私たちはその社会環境を整えるために働きかけることができるという力を持っているとも言えます。これはエンパワメメントとの目指すところでもあります。もう一度Nutbeam先生の言葉をお借りすれば、これはより高度な認知的スキルであり、社会的スキルとともに、情報を批判的に分析し、この情報を日常的な出来事や状況をよりコントロールするために使用することに適用される「批判的ヘルスリテラシー(critical literacy)」にあたります。を基にした、健康を決定している社会経済的な要因について知り、社会的政治的な活動ができる能力である批判的ヘルスリテラシーです。(8/11修正)
私たちはこの批判的ヘルスリテラシーを高めて行く必要があります。

ディスカッションではヘルスプロモーションという言葉が流行らなかったことによるヘルスリテラシーという言葉の代用や、政治的な問題についても話しました。
ヘルスプロモーションとヘルスリテラシーという言葉の問題では、“new wine in old bottles”(Tones, 2002)という言葉があるのを思い出しました。うまいですね。
また、ヘルスリテラシーという言葉にしては中身がでかすぎるのではという意見も出ましたが、ヘルスリテラシーはリテラシーとして自分が健康になるために最低限必要なものと考えるとなるほどと思います。

これは個人的に思ったのですが、ヘルスリテラシーを日本語にするなら何がいいのでしょうか…“健康を決める力”ですかね(単に健康を決める力というサイトを宣伝してみただけです(笑))。

最後に、話を現場レベルにすると、このヘルスリテラシーの働きかけをプライマリケアなどによって行っていく流れがあるそうです。また実際にイスラエルの国単位でも取り組みなどもあるようです。今後追っていきたいと思います。



とにかく私は研究を進める上でもヘルスリテラシーそのものを理解することが急務です。
どのような背景があるのかを知っているかというのは論文を読んだ時の理解にもかなり関わっていると思います。頑張ります。

[1]Nutbeam, D. : Health literacy as a public health goal: a challenge for contemporary health education and communication strategies into the 21st century. Health Promotion International, 15(3), 259-267, 2000.

2013年10月28日月曜日

第72回公衆衛生学会② 

前回に続き公衆衛生学会の参加報告メモです。
さすがは公衆衛生学会、本当に様々なテーマで発表、議論が行われていました。
多くのポスターやビッグデータに関する公演を見たのですが、ここではヘルスリテラシーに関わる所をメモしておきます。



直接ヘルスリテラシーが言及されることは無かったのですがシンポジウムの

   健康日本21(第2次)の新たな課題~健康格差の縮小を目指して~

は興味深く聞いておりました。これは健康日本21(第2次)の策定に関わった5名の方に、健康格差の縮小をテーマとして発表してもらうものです。

話の内容としては、
厚生省の河野先生は健康日本21(第2次)では健康寿命の延伸と健康格差の縮小が方針として示されたことに触れ、健康格差を地域格差の点からお話されていました。
国として、地域ごとの健康格差対策への取り組みのモニタリングが重要で、そして実態把握をすること、その背景の要因分析を進めることで今後の課題と対策を明確にしていくとのことでした。
藤田保健衛生大学の橋本先生はこのことに加えて健康寿命の点から具体的なお話をされていました。
続く3人の方も栄養、循環器疾患、口腔といった点から健康日本21の目標に向けたお話をされていました。この発表の中でいくつかの日本のコホート研究が取り上げられており、日本の大規模なコホート研究についてあまり知らなかったということを認識させられました。
疫学を勉強したのに具体的活動を知らないとはもったいないことです。
データを読むという意味でも調べて勉強する必要があると思います。
あとは、健康格差の話では避けて通れないであろう健康の社会的要因等が取り上げられていて面白かったです。

個人的にはヘルスリテラシーの話が出るかと期待もしていたのですが、その言葉は聞けませんでした(聞き逃しの可能性は否めないのですが…)。
ヘルスリテラシーは健康の維持や向上に重要な役割を果たし、健康格差の不確実な先行要因となりうると言われているように(Rudd, 2007; Lee et al., 2010, Paasche-Orlow et al., 2010)公衆衛生のゴールであり、健康の決定要因の一つとしての認知は高まっています。
もっとエビデンスが蓄積してくればこの場でも大々的に扱われるかもしれません。

ディスカッションの場では、地域格差に対して、地域は様々な特有の文化を反映しており簡単に是正できるものではないところがあるがどうするかというような鋭い指摘がありました。これに対してどのような答えだったか実はちゃんと覚えておらずメモしなかったことを後悔しているのですが、地域の特性も含めてまずは把握することが重要であるというような感じだった気がします(ごめんなさい、当てにしないでください)。


話は変わりまして、もう一つの話題をメインシンポジウムの

   変革期の公衆衛生学とヘルスコミュニケーション

からご紹介します。
座長の一人は日本のヘルスコミュニケーション領域でも有名な中山健夫先生です。私がまだ学部生の頃、大学院進学を考えている時に京都大学で一度お話させてもらったのですが、私のとりとめの無い話を非常に丁寧に話を聞いてくださったことを覚えています。中山先生もシンポジストの一人としてヘルスコミュニケーションについて分かりやすくお話しされていました。

このシンポジウムの話としては妊孕能や認知症についての具体的な話がありました。特に座長のもう一人である大東文化大学大学院の杉森先生は妊孕能に関するリテラシースケール(Cardiff Fertility Knowledge Scale : CFKS)とHLS14(後述)の相関を見るなど興味深い研究をされていました。また杉森先生はSorensen先生のヘルスリテラシーの統合概念モデルに触れるなど、私には非常に関心の高い所をお話されていました。具体的にTeachbackなどについても触れていました。

さて、先ほどのHLS14ですがこれは14-item health literacy scale for Japanese adultsのことです。
これは私が一番楽しみにしていたシンポジストである須賀万智先生らが開発したものです。
須賀先生はヘルスリテラシーについて丁寧に説明されていてとても分かりやすかったです。
説明の中でNutbeam先生によるヘルスリテラシーの分類を取り上げており、ヘルスリテラシーをリスクファクターとして捉えることによる入院などのアウトカムという考え方と、ヘルスリテラシーを資産として捉えることでヘルスリテラシーそのものがアウトカムになるという対峙を明確に述べていました。

私もこの点については文献を読んで勉強したつもりでしたが、先生のお話でスっと落ち込むような感じがありました。同じ文献を読んでいても吸収する度合いが全く違うのだろうなと痛感したのですが、これは私がもっと努力していくしかありません。

先生の話の後半はHLS-14についてです。
もともと日本でヘルスリテラシーの尺度として有名なものは石川先生らの開発した糖尿病患者のヘルスリテラシースケールがありました。しかし、患者ではない一般集団に対するより包括的な尺度開発のためにそれを発展させましました。
実際にHLS-14を用いて研究を行うと、HLの高い人の方が健康医療情報を収集する情報源が多かったり、治療上の意思決定にも主体的に参加したいと考えているということが明らかになったとのことです。

HLS-14は世界的に見ても様々な文献で取り上げられています。
尺度開発に興味が出ている私はHLS‐14についても勉強する必要があるなと感じました。
この尺度はどのように作られているのか、他の尺度との違いは何か。
私が研究を進めていく上でHLS-14が優れているものであればそれをお借りして研究することもできます。別に尺度を開発する必要があるのであればそれはなぜか、この点は明確に言語化できないといけないところでしょう。



以上が公衆衛生学会参加報告のメモでした。
自分の考えを見つめるのにも大変重要な機会となりました(学会に限らずその後のお酒の席もそうでした(笑))。
11月は研究会において研究の発表があるので進めていかなければなりませんし、いいモチベーションにもなりました。
ただし、心残りは発表をしなかったことです。
知人の方々が発表されている姿にはやはり刺激されます。
来年は発表したいです。というかします。
そうすると抄録の提出が5月位だったと思いますが時間が…頑張ります。

2013年10月27日日曜日

第72回日本公衆衛生学会① ~Kawachi先生講演~

10月23日から25日まで三重県で開催された公衆衛生学会に参加してきました。
その一部(Kawachi先生による講演の)メモです。



参加にあたって最初の注目はやはり、Harvard School of Public HealthのIchiro Kawachi先生による基調講演です。
先生の本や文献は読んだことがありましたが、実際に公演を見るのは初めてなので楽しみにしておりました。

いざ会場へ行くと大ホールにはすでに人であふれており、さすがKawachi先生です。
話は健康の社会的決定要因のお話です。
社会的決定要因については日本でもかなり議論されるようになってきたと思います。
今回の公衆衛生学会でもテーマとして様々な所で取り上げられていました。

その社会的決定要因について先生は行動経済学の観点からのお話をされていました。
導入としてアメリカの肥満の話から入り、いくつかの研究とともに紹介されました。
特に面白かったのはその中の一つ、映画館でポップコーンを使った研究のです。

映画館で映画を見る人に対してランダムに小さいカップに入ったポップコーンと大きいカップに入ったまずいポップコーンを二つのグループを作ります。
ここで重要なのはまずいという所でしょう。単純に考えて、それが美味しかったらあるだけ食べてしまうと考えられますが、まずいということはカップのサイズに関わらずどちらのグループも同量食べて後は残すと考えられます。もちろん個人差はあれどグループとして見たときにそうなるだろうということです。
結果は大きいカップに入ったまずいポップコーンを渡された人のほうが小さいカップに入ったまずいポップコーンを渡された人と比べて明らかに多くそれを食べていたということです。
つまりここから言えることは、私たちは、目の前にあるものを食べてしまうということです。
どれ位の量を食べようかという私たちの意思決定は与えられたポップコーンの量に依存しているのです。

研究者としてこれに興味があるのであればちゃんと文献を確認すべきだと思いますが、このような話は様々な事例で報告されているのである程度のエビデンスは蓄積しているのではないでしょうか。また、個人的に行動経済学的な話に興味がある方にはTEDのDan Arielyの公演を見ることをおすすめします。

先生は、このような観点は政策を考えるのに必要であるとし、人の関心に関する研究も紹介されていました。募金を促すのに、人の顔が見えるポスターというのは、実際の難民の数などの数値が事細かに入った説明書きより明らかに有効だというものです。面白いのは二つの合体よりも顔だけの方が有効だということです。なぜでしょう。感情と論理では感情が重要となる場面があるということです。
日本の公衆衛生学的なアプローチはそういった点はなかなか考えてきませんでした。
それでも少しずつソーシャル・マーケティングといった考えも出てきて、今後もっと積極的になることに期待したいです。

話の最後は早期教育の重要性についてウォルター・ミシェル先生のマシュマロテストについて取り上げお話されました。
このテストで我慢できる子は14年後の対処能力や学力と相関があったのです。
他にもペリープログラムなどを挙げ、早期教育によって身につく忍耐力は将来の健康行動につながるとのことです。
コストという面で見ると、確かに初期投資が大きくなるのですがその後の社会にかかる費用が抑えられ結果的には利益になるとされています。
この点についてはノーベル経済学賞を受賞したアメリカの経済学者であるジェームス・ヘックマンの論文もあります。



以上がKawachi先生のお話でしたが、先生のお話は学際的でとても面白いです。
日本では学際的という言葉を使いながらも実際は独立しているということが多くあります。
公衆衛生学というすでに広い学問のはずの中でもやはり相互作用が起こりにくということを感じます。
そういえば以前、研究会の輪読でシステムに関する話を扱ったのですが、システムの定義に相互依存や相互作用といった言葉がありました。
その意味では公衆衛生学に限らず日本の学問はまだシステムとしての体系になれていないのかもしれません。

書き足しでもう一つ、今年の11月からKawachi先生のオンラインコースが無料で受けられるそうです。edXのこちらで受けられるようです。
これはぜひ受けてみたいと思います。

本当は学会参加報告で1つのエントリを書こうと思っていたのですがKawachi先生の話だけで書きたいことがどんどん増えてしまったので、また別に学会についてのエントリを書きたいと思います。

2013年10月22日火曜日

ヘルスリテラシーと社会的要因の関連性

今回もthe European Health Literacy Survey(HLS-EU)に関する文献からです。
Health literacy of Dutch  adults: a cross sectional survey[1]
論文はこちら


■背景
ヘルスリテラシーの概念への関心は、保健医療の中の市民とヘルスケアが持つ役割と責任に対する強調を伴いながら増してきた(Kickbusch & Nutbeam, 2000; Nutbeam, 2000; Chinn, 2011)
多くの研究によって研究課題としてのヘルスリテラシーの重要性は指摘されており、ヘルスリテラシーは健康の維持や向上に重要な役割を果たし、健康格差の不確実な予測因子になる可能性があると言われている(Rudd, 2007; Lee et al., 2010, Paasche-Orlow et al., 2010)。

・ヘルスリテラシーの定義と範囲の議論
この議論は二つのアプローチに分けられる。
→‘clinical(臨床的)’ approachと‘public(公衆衛生的)’approach
この違いは、保健医療内の患者の能力であるか、患者や医療を超えた(例、職場、政治、家)公共への働きかけによる概念の拡大にある。

ほとんどの研究は臨床的視点に基づいている。
公衆衛生的視点の研究としてHLS-EUsurveyの実施。

・研究目的
ヘルスリテラシーに関して構築されている理論的知識に寄与すること。
それによって一般集団のヘルスリテラシーに対する先見的な洞察を得て、人口統計学特性や社会経済学的特性との関わりを調査する。
人口統計学的特性や社会経済学特性とヘルスリテラシーの関係に対する的確な洞察は、健康状態にリスクを持ちヘルスリテラシーが不十分である立場の弱い(vulnerable)集団を明らかにすることにつながる。


・リサーチクエスチョン
1) 成人は各領域(ヘルスケア、疾病予防、ヘルスプロモーション)において、ヘルスリテラシーの能力である健康情報の収集、理解、評価、適応にどの程度難しさを認知しているのか
2) この能力は人口統計学的特性や社会経済学的特性とどの程度関連があるのか。
■方法
・研究デザインとデータ収集
オランダの15歳以上の人に対して層化ランダムサンプリング
―人口数と密度に比例した包含確率(a probability of inclusion)にするために、都市部と田
  舎に応じ た州内部と州での層化

家庭はエリア内でランダムに選択され、電話やメールによって各家庭から1人をバースデイルール(家族の中の15歳以上の人で誕生月が早い人が対象となるものでしょうか)のようなものでリクルート。
2011年の7月にリクルートされた人に対面で質問紙を渡し実施。2817人のうち、1794人は参加意思がなく1023人(36%)が対象となった。25歳以上の人だと収入や教育、社会的地位に関して回答が安定することから分析対象を25歳以上とし、最終的に925人の成人が対象となった。

・変数の評価
ヘルスリテラシー
前回のエントリで取り上げた尺度開発の概要なので詳細は割愛しますが、引用文献にThe development and validation of the European health literacy survey(hls-eu)[2]という論文が挙げられていました。アブストを読む限り前回エントリの尺度開発の文献と似た内容ですが、以前から尺度開発の論文が出ているとは知りませんでした。すぐに読みたいと思います。

質問項目47項目:
(a)情報の収集能力に関する(13項目)
(b)情報の理解能力に関する(11項目)
(c)情報の評価能力に関する(12項目)
(d)情報の適応能力に関する(11項目)

回答カテゴリは4件法のリッカートスケール:
1=とても難しい(very difficalt)
2=まあ難しい(fairly difficult)
3=まあ簡単(fairly easy)
4=とても簡単(very easy)
“分からない”という選択肢は与えなかったが、回答者がそのように答えた時に使われ、欠損値として記録。

得られた回答は能力ごとに合計し、非常に難しいと感じている人とあまり難しいと感じていない人に分けた。4つ全ての能力で得点が最も低い回答者(収集、理解、評価、適応に対して第一四分位数より低い人)は非常に難しいと感じていると分類し、得点が最も高い回答者(第三四分位数より高い人)はあまり難しいと感じていない人とみなした。
これと同じことを全ての領域としてだけでなく、各領域(ヘルスケア、疾病予防、ヘルスプロモーション)ごとにも行った。

人口統計学的、社会経済学的特徴
以下の人口統計学的特性や社会経済学的特性を分析:

年齢→連続変数
教育水準→1)教育無し、または初等教育、2)中学校教育、3)高等学校教育、または中等教育(中学・高校教育)を受けた後、高等教育(大学)を受けていない(専門学校の人などが当てはまる)、4)大学教育以上
一ヶ月の世帯所得→10点満点スケール 分析においては四分位数:1)1850ユーロ(日本円で25万円弱位?)より低い、2)1850-2400ユーロ、3)2400-3600ユーロ、4)3600ユーロ以上で記録
社会的地位→社会的地位の認知(自己記録による変数) 1(最も低い社会階層)-10(最も高い社会層)の間で選択。低い(1-4)、中間(5、6)、高い(7-10)の連続変数

・統計解析
質問紙の信頼性と内部一貫性を検証するためにプロマックス回転を用いた主成分分析(論文にこのデータは載っていません)を行い、クロンバックのαを計算。
質問項目(収集、理解、評価、適応)の内部一貫性は十分であった(それぞれのクロンバックのα=0.84, 0.83, 0.85, 0.87)
※ただし、この後の結果を示す表を見ると収集能力に関する質問が13から11に、適応能力に関する質問が11から9に減っているので、内部一貫性を高めるために削除したと考えられます。

因子分析の結果、定義した領域(ヘルスケア、疾病予防、ヘルスプロモーション)に従って、収集、理解、適応の能力に対するヘルスケア因子、疾病予防因子、ヘルスプロモーション因子に分けられた。
評価能力に関しては、因子分析では2つの因子を特定し、それらを‘ヘルスケアと疾病予防’、‘ヘルスプロモーション’とラベル化し、ヘルスケアと疾病予防におけるヘルスリテラシー測定のためにデザインした項目を結合した。

合計得点と各項目の平均値による記述統計は最初のリサーチクエスチョンの答えになる。
2つ目のリサーチクエスチョンに答えるためにヘルスリテラシーと人口統計学的、社会経済学的特性の関係に関して多重回帰分析を実施した。

欠損地
欠損地に対して、多重代入法MICE(Multiple imputations by Chained Equations)を用いるが、完全にMAR(missing at random:ランダムに起こる欠損値で、欠損する値の大きさ自体はランダムで、欠損が起こることは他の変数で影響を受けているもの)というわけではない。
全体の分析の結果を得るためにRubine's ruleに従う(Van Buuren, 2012)
これはバイアスが少なく、欠損値を扱う最新の方法とされている。

■結果と考察
結果に関しては記述するより表を見たほうが早いので…
Table4 Descriptive statistics per health literacy competence and domain(N=925)[1]

各領域の項目の平均値はおよそ3(easy)に近いです。結構高いですね。
一番低いのがAccessのヘルスプロモーションで2.6です。ヘルスケアや疾病予防より低くなるのは感覚的に分かる気がします。
逆に一番高いのはUndestandingの疾病予防とApplyingのヘルスケアで3.6です。疾病予防の情報が理解できるということ、医療場面において情報を適応できるということです。後者に関してはこんなに高いのかと感じましたが、質問紙の方で質問を確認してみると病状に関する医師からの説明を意思決定に使えるか、処方箋に関する指示に従う、緊急時に救急車を呼ぶ、医師や薬剤師に従うといった明確で分かりやすい質問であることを反映している気がします。

ヘルスリテラシーと人口統計学的、社会経済学的特性の多重回帰分析の結果についても…
Table5 Associations between socio-economic and demographic characteristics and healrh literacy competences[1]

ちなみに2変数の単回帰では一貫した関連はなかったようです。
多重回帰(Table5)で見ると、いくつか関連が見られます。
全体を見渡すと、ヘルスケアと疾病予防における人口統計学的、社会経済学的特性とヘルスリテラシーの関連性は似ている気がしますが、ヘルスプロモーションでは全く違った関連性を表しているように見えます。

ヘルスケアに関して表を横に見れば、教育はAppraising以外で、社会的地位は全てに関連性があります。
疾病予防ではAccessing、Understandingにおいて全く同じ関連性です。教育、所得、社会的地位、年齢、性です。

ヘルスプロモーションでは社会的位地位や年齢が多く関連しています。

見ていて思うことは情報が多く一つ一つ解釈するのが難しいです。
ヘルスケアと疾病予防において年齢が上がると難しさが増加していることから、これはパソコン媒体の利用を反映してるのかなと思いましたが(高齢者の方が利用へのハードルが高いと考えられる)、ヘルスプロモーションの所では逆の結果になっています。

これらの解釈を進めていくためにも今後はもっと質問項目を吟味していく必要がありそです。

性に関して見ると、ヘルスケアと疾病予防の領域において女性の方が男性より情報に対する難しさを感じていないようです。

■限界
今後の研究ではさらにモチベーション等の変数が必要になる。
高齢者の対象者が多いように国のサンプルの代表性を確保していない。だが実際には大きくアウトカムには影響していないようである。
etc.



先ほども述べましたが、今後結果の解釈をもう少し吟味していくためにやはり質問項目の検討を進めたいと思います。
特にヘルスプロモーションの領域におけるヘルスリテラシーとの関連性は今まで無かった取り組みなので気になるところではあります。
そういえばHLS-EU-Qには47項目版に加え、16項目版と86項目版もあるようでそこら辺の文献もあれば読みたい所です。
追記H25/12/4→86項目版とはヘルスリテラシー項目47項目と社会的要因39項目(NVSを含む)のことで、今回の研究ではそ47項目とその一部または86項目版を利用しているようです。

[1]van der Heide et al.: Health literacy of Dutch adults: a cross sectional survey. BMC
  Public Health 2013 13:179.
[2]Fullam J, Doyle G, Sorensen K, Van den Broucke S, Kondilis B: The development
  and validation   of the European health literacy survey (hls. eu). Ir J Med Sci 2011,
  108:225–226.